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薬師如来について

薬 師 如 来

正しくは薬師瑠璃光如来という。瑠璃光を以って衆生の病苦を救い給う如来で、その浄土は東方瑠璃光世界であると説く。大乗仏教になって諸種の如来が登場されたけれども、そのうち最も大衆の信仰を集めたのは薬師如来である。わが国でも飛鳥時代においてすでに聖徳太子は、父用明天皇の御病気平癒を願って薬師像を造顕されており、白鳳・奈良時代を通じても薬師寺の創建、香薬師・峰薬師の造立など、その信仰はいっそう盛んであった。平安時代に入って伝教大師は天台宗、弘法大師は真言宗を伝え、天台宗の本尊は釈迦如来、真言宗の本尊は大日如来であるべきなのに、比叡山の根本中堂ならびに高野山金剛峯寺金堂には、いずれも薬師を本尊とするまでにその信仰は盛んであった。藤原・鎌倉時代になって、浄土教が勃興して天台・真言の牙城をゆすぶったけれども、阿弥陀信仰に対抗してその牙城を護りつづけたものはじつに薬師信仰であったのである。したがってその造像は古往今来、はなはだ盛んで国宝・重文に指定されたものだけでも230余体の多きを数える。その像容は右手を施無畏印とて手をあげて心配をするなと慰撫の姿勢をとり、左手に薬壷を持っている姿が普通であるが、奈良時代以前のものは必ずしもそうでない。坐像が最も多いが、立像も倚像もある。また材質的には木造が最も多く銅像がこれにつぎ、乾漆製もある。
(石田茂作先生の著書による)